最初にこの話を聞いた時、瞬間的に「これは時間がかかりそうだ」と、「こういうことに巻き込まれたくないな」という気持ちが働いた。しかし、建設会社の設計部に属する設計屋には、仕事に対する拒否権というのは基本的に無い。依頼されるまま、「こんなわけの分からない仕事は部下に指示できない」と、自分で慣れないCADを操作して簡単に平面図、断面図を描いたのは2004年の秋だったと記憶する。その後、4ヶ月ほども連絡が無いものだから、もうこれは無い話だと、半ば胸をなでおろしていたのであるが。営業から、「この件について請けることにしたから、打合せに行ってもらいたい」と聞いた時は正直、不安だったね。まあいいや、今までだって先の見えない仕事に首を突っ込み、それでもとにかく、いつかは終わりが来たものだ・・と、指定された場所へ出かけた。日本建築センターだったよ、その場所ってのは。
平成元年1月19日建設省住宅局建築指導課長から特定行政庁建築主務部長に宛てた通達には次のようにある。
従来より、建築基準法第二条にいう「土地に定着する」状態とは、単に陸上で土地に強固に結合された状態のみならず、水面、海底等に定常的に桟橋や鎖等で定着された状態も含むものであるとの判断が確立しており、このような状態にある工作物に対しても、その使用実態に即して建築基準法が適用され・・・・
・・・海洋建築物については、既に昭和44年9月16日付け建設省住指発第371号「水面又は水中に設ける施設に関する安全性の確保について」により、その取扱方法を示しているところであるが、貴職におかれては現下の状況にかんがみ、今後とも建築基準法の適正かつ確実な執行に努められたく、念のため通達する。
難しい言い回しで書いてあるが、要するに、「このところ船なんかを利用してレストランだの水族館だのと造ってるようだが、前にも通達しといたように、動かないのなら建築だから、そう考えて指導させるように」と、言っているのである。
ところで、同日付の建設省住宅局建築指導課建設専門官から特定行政庁建築主務課長宛てに、次のような通達も出ている。
さて、海洋建築物の取扱いにつきましては、平成元年1月19日付け建設省住指発第5号をもって建築指導課長より通知されたところですが、一部の海洋建築物の建築主において、昨年二月の船舶安全法施行規則の改正により船舶安全法の適用が及んだ一定用途の係留船には、建築基準法の適用が及ばなくなったとの誤解があるように見受けられます。
・・・前期の係留船に船舶安全法の適用が及んだとのことについては、当方には船舶安全法所管部局より事前に何らの協議もなく、同法の改正によっても、係留船への建築基準法の適用の有無は、従前と変わるものではありません。・・・
これもくだいて言うと、「建設省には何の相談もなく、港湾の連中が係留船には船舶安全法の適用を決めたということだが、そっちはそっちで勝手にやったことなので、こちらは前々から決めている通り、建築基準法を適用して指導するので、皆さんそこんとこよろしく」と、言っているのである。まあ、こういうことで迷惑をこうむるのは民間の事業者である。またその事業者に依頼を受けた設計技術者や建設業者は、それら事業者の代わりに役所へ行き、あっちの部署、こっちの局と出向いて調整するのである。縦割り行政の役所の方に、自分達で内部調整をするという考えは乏しい。
幸いに平成10年3月31日、海上技術安全局安全基準課長および海上技術安全局検査測度課長から地方運輸局宛てに「係留船に係る取扱いについて」という通知が出ている。
係留船であって、船舶安全法のほか、港湾法、建築基準法又は消防法の適用を受けるものに関して、「規制緩和推進計画の再改定(平成9年3月28日閣議決定)」、「経済構造の変革と創造のための行動計画(平成9年5月16日閣議決定)」等に基づき、関係省庁において「複数の規制が適用される浮体構造物に係る技術基準の適用については、事業者に対し過重な負担を課すことがないよう、個別の事案ごとに、関係行政機関間で協議を行い、・・・」
2005年(平成17年)に入り、WATERLINEの実現に向けて役所協議を始めるのだが、上記の規制緩和により期待された「関係行政機関間での協議」は、正直言って無かったと言って良い。時既に建設省と運輸省は合併され、国土交通省となっているにも関わらず、この個別の事案が実現する為にあっちの役所、こっちの役所と調整してまわるのは、相変わらず民間の事業者側の担当者だったのである。ヤレヤレ。役所ってなんでいつまでも変われないのでしょうかね。
WATERLINEのデザインに見るべきものがあるとすれば、それはインテリアデザイン事務所CASAPPOの功績である。しかし、WATERLINEのような建造物をあそこにあのように浮かべるためには、並々ならぬ裏方のエネルギーが必要だったということは強調しておきたい。先日、WATERLINEを見せてやったら「ふーん」と言った妻よ、今回のブログだけは読むべし。そうして亭主の仕事の難しさを少しは推し量るがよい。
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